
【天文学・歴史】なぜ「品川」に日本初の民間天文台があったのか?英国人貿易商と星空のロマン
【天文学・歴史】なぜ「品川」に日本初の民間天文台があったのか?英国人貿易商と星空のロマン
前回の記事では、品川区南品川にある「ゼームス坂(ジェームズ坂)」の由来についてご紹介しました。
明治時代、急坂に苦しむ近隣住民のために私財を投じて坂を削り、傾斜を緩やかにする大工事を行ったイギリス人貿易商、J.M.ゼームス(J.M.James)氏。その優しさと功績をたたえて名付けられたエピソードは、今も品川の街に心温まる歴史として残されています。
しかし、ゼームス氏が品川の街に残した偉大な足跡は、道路の開削だけではありませんでした。
なんと彼は、明治18年(1885年)、自身の邸宅があった南品川の高台に「日本で初めてとなる本格的な民間天文台(ゼームス天文台)」を建設していたのです。
住民のための道路整備だけでなく、なぜ彼は品川の地に「天文台」までも建てたのでしょうか?
今回は、ゼームス坂の知られざるもう一つの歴史ロマンである「ゼームス天文台」と、幕末〜明治の品川から見上げた星空の物語を徹底解説します!
1. 異国の貿易商「J.M.ゼームス」と天文学の意外な関係
まず、ゼームス氏と天文学にはどのような繋がりがあったのでしょうか。
イギリス海軍の出身だったゼームス氏は、幕末の慶応2年(1866年)に水先案内人(ナビゲーター)として来日しました。その後、貿易商として成功を収める傍ら、明治政府の海軍省に雇われ、航海術や測量技術の指導にあたった人物です。
当時の海軍において、大海原で船の現在地(緯度・経度)を知るための「航海術」と、夜空の星の位置を精密に観測する「天文学」は切っても切れない密接な関係にありました。
元海軍士官として高い天文学の知識と測量技術を持っていたゼームス氏は、日本の近代化と天文学・航海術の発達のために並々ならぬ情熱を注いでいたのです。
2. なぜ品川の高台に「天文台」を建てたのか?
明治18年(1885年)、ゼームス氏は自邸があった南品川5丁目(現在の浅間台小学校付近の高台)に、巨額の私財を投じて本格的な天体観測施設「ゼームス天文台」を設立しました。
これが、官立(政府設立)ではない「日本初の民間天体観測所」となります。
ゼームス氏が観測地のロケーションとして品川を選んだ背景には、明確な地理的理由がありました。
① 高台であり、当時は周囲の視界が開けていた
前回の記事でも触れた通り、南品川の台地(浅間台)は武蔵野台地の東端にあたり、東側には品川の海(江戸湾)が広がる非常に見晴らしの良い高台です。高層ビルや街灯の明かりが存在しなかった明治時代、この品川の高台からは夜空が一望でき、天体を観測するのに絶好の環境だったのです。
② イギリス製の最新鋭「屈折望遠鏡」を導入
ゼームス氏は、故郷イギリスから当時最新鋭だった口径約12〜13センチの本格的な屈折天体望遠鏡を取り寄せ、回転式のドーム型観測部屋を備えた本格的な施設を完成させました。
3. 日本の近代天文学の発展に貢献したゼームス天文台
このゼームス天文台は、単にゼームス氏個人の趣味の部屋にとどまりませんでした。
当時、日本の公的な天文学研究は、東京大学の観測所(後の東京天文台、現在の国立天文台)などが始まったばかりの草創期でした。
ゼームス氏は自ら建設した天文台を、日本の天文学者や海軍の測量技術者たちに惜しみなく開放したのです。
天体観測データの共有: 月や惑星の観測データ、時刻の測定精度を上げるための星の通過観測などを行い、初期の日本の天文学研究に貴重なデータをもたらしました。
若い技術者の育成: 日本人の若い研究者や海軍関係者を招き、望遠鏡の扱い方や観測技術を直接指導しました。
ゼームス坂の開削と同じように、見返りを求めず日本の未来のために奉仕したゼームス氏の情熱によって、日本の近代天文学の礎が品川の地で育まれました。
4. 消えた天文台と、現代へ受け継がれる品川の記憶
日本の天文学に多大な貢献を果たしたゼームス天文台ですが、残念ながら現在その建物自体は残っていません。
ゼームス氏が帰国・没したことや、大正時代の関東大震災、その後の都市化の波によって施設は解体され、跡地は住宅街や学校(浅間台小学校など)へと姿を変えました。
しかし、ゼームス氏が地元住民のために坂道を切り開いた親切心と、夜空を見上げて科学の未来を夢見た情熱は、「ゼームス坂」という地名の中にしっかりと刻み込まれ、今も品川の人々に語り継がれています。
現代の南品川は賑やかな住宅街となり、当時のように満天の星空を仰ぎ見ることは難しくなりましたが、140年前の同じ高台で、イギリス人貿易商と日本の青年たちが最新の望遠鏡を覗き込みながら宇宙の神秘に思いを馳せていたという事実は、この街の歴史の奥深さを物語っています。
5. まとめ:歴史のロマンを感じながら品川の坂を歩こう
なぜ品川に日本初の民間天文台があったのか?
その裏側には、海軍出身のゼームス氏が持っていた高い科学知識と、日本の近代化を支えようとした情熱、そして品川という高台が持っていた素晴らしい地理的条件がありました。
南品川の「ゼームス坂」を歩く機会があれば、ぜひ坂道の利便性だけでなく、かつてその高台から見上げられていた美しい星空と、明治のパイオニアたちの熱いロマンに思いを馳せてみてください!
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